社会人女性拳士インタビュー


副道院長の道須が、東京桜台道院に所属する拳士に話を聞くシリーズです。
今回は、武道や格闘技の経験がなく社会人で入門されたお二人の女性拳士に話を伺いました。(2023年12月)

A拳士・・・少拳士二段、70代女性。ジャズシンガーとして音楽の道を歩んでこられ、華奢なお身体に一本芯が通っているような佇まいです。
F拳士・・・准拳士初段、50代女性。2018年の春に東京桜台道院での拳士第1号として入門。落ち着いた雰囲気ながら、なんでも吸収してしまう勉強熱心な方です。

少林寺拳法との出会い

道須(以下、道):少林寺拳法を始める前は、何か習い事やスポーツをされていましたか?
また、どのように少林寺拳法に興味を持たれたのかも教えていただけますか?

:私は母親の介護を長くしていたので、その間何もできない状況でした。介護をしながら気晴らしに食事会などに参加していました。その中で少林寺拳法をしている人がたまたまお二人いらっしゃり、当時は興味がなかったので「へー」とお話を聞いていました。
その後、母が亡くなって何か身体動かしたいなと思いました。いままではテニスと水泳をやっていたこともありますが、違うことをやってもいいなと思い、少林寺拳法を思い出して、どんな感じなんですか?と聞いてみました。
「力のない女性でも十分できますよ」「年を取っていても大丈夫ですよ」と言ってくれて体験に行ってみることにしました。

道:少林寺拳法をやっていた人は音楽仲間だったんですか?

:いえ、他業種の方です。そのうちお一人は、川越道院の矢島先生でした。もう一人は大宮でやっている70歳くらいの方でその方は六段でした。その方が近くの道院を探してくれて、藤田先生の名前が出てきました。
矢島先生は藤田先生のことを知っていていい先生だと言ってくれて、家から近そうだったので行ってみようかと思いました。

道:いろんな人に導かれたんですね。水泳とテニスは昔から?

:30代、40代のときにやっていました。水泳はけっこう上手くできるようになったんですが、テニスはオートテニスをやりすぎてテニス肘になってしまいました。

道:関節を痛めるのは凝り性な人にありがちですね…。Fさんはどうでしょう?

:私の場合は、少林寺拳法はいいよと言ってくれた人がいて、その時に「痛くない、護身になる、体幹が鍛えられる」と聞き、良いことづくめだなぁと感じました。空手との区別がつかないくらい少林寺拳法のことを知らなかったのですが、そんなに良いものがあるのかと関心が湧いてきました。

道:何かきっかけがあって少林寺拳法のことを聞いてみたんですか?

:いえ、たまたま聞きました。私が会社を辞める時の送別会で聞いたので、その方も特に勧めようという気もなかったのかなと(笑)
そこで初めて少林寺拳法を認識しました。
ネットで調べたところジムやカルチャースクールでやっているようなものではなく、ハードルが高いのかなと感じました。
どうしようかと思っている時に、練馬区の初心者教室の募集があり申し込んでみました。少林寺拳法を知ってから1年後のことです。
初心者教室に3回通ったあとは、中でも家から一番近くて通いやすい場所にある東京桜台道院に決めて入門しました。

道:たどり着くまでに時間はかかりながらもご自身で調べたのですね。

:体験するまで、実態が分からなかったので不安はありました。

道:確かにカルチャースクールのようなものではないと敷居は高く感じるかもしれないですね。少林寺拳法の前はなにかされていましたか?

:高校時代にバドミントンをやっていました。それ以外は運動関係の習い事はやっていなかったです。
社会人になってからは、プライベートか仕事関係かという人間関係がほとんどで、何かのコミュニティに加わるのは初めてでした。

道:お二人とも強い動機というよりは、周囲の人に勧められたりして、いいかもという感じで来られたんですね。

:私の場合は母が亡くなって、寂しくて何か動かなきゃと思いました。
刺繍をしたり、洋服作るのもいいが、止まっていると母のことを思い出してしまうんです。だから、動くほうが元気になるなと思いました。
母が亡くなって2か月後に少林寺拳法を始めました。

道:実際にやってみてどうでしたか?

:面白かったです。知らないことばかりで、こういうものもあるんだと。
藤田先生の教え方は分かりやすく、スーッと入ってきました。楽しみに稽古に通っていました。

道:Aさんが入門してきてくださったのはよく覚えています。
そのあとしばらくして私は休眠してしまいましたが、2年くらいして道院の方から連絡がありAさんの昇段祝いに誘ってもらいました。
その時に、あの時に入ったAさんが初段になるくらい頑張ったんだなと刺激を受けて、私もまたやりたいなと道院に復帰したんですよ。だから私が今いるのはAさんのおかげです。

:初段は嬉しかったですね。入門したばかりのときは取れると思わなかったです。

道:Fさんは始めてみてどうでしたか?

:私も、習って覚えられることや、できるようになっていくのが楽しかったですね。
身体を動かすこともそうですが、「自己確立」など教えの部分も新鮮に感じられました。
少林寺拳法の教えを知るまでは、良いことをするには自己犠牲が必要だと思っていました。自分のことはさて置きとにかく良いことをしようというのではなく、まずはしっかりした自分を作るという教えには、ハッとさせられるような衝撃があり、子どものころに知っていたら人生変わったかも、とも思いました。

道:自己を確立して、そのうえでさらに人のためにということをはっきりと言う考え方は他にあまりないのかもしれないですね。

:子供に対してもこういう教育があるのはいいなと。
道院というところは稽古をするだけではなく、いろんな行事があったり、共同体というか、集うところ…と感じていて、カルチャースクールなどの習い事と違い、自分が教わったことを後輩に教えたり、教えあったりするというのも、普通のお稽古ごととも違うところだなと思います。
好きなことをするために集まって、楽しく学び合える道院という存在が面白いなと思っています。

道:みんなそれぞれ「好き」で来ているという共通点がありますね。

:共通点がそこだけで本当に様々な人が集まっているという面白さがあります。
始めてみてよかったことは本当に色々ありますね。技術的なことだったり、教えだったり、道院という場だったり。

道:技術と教え、コミュニティとしての道院それぞれではまったんですね。

少林寺拳法を始めて変わったこと

道:始めてみて日常生活や仕事面で何か変わったことはありましたか?

:いっぱいあります。
以前よりすごく人に声を出して挨拶するようになったり。
もともと親しくない人に声を掛けたりはしなかったですが、そういうコミュニケーションは増えました。

道:普段から道院でいろんな人と顔を合わせて、合掌礼で挨拶することが習慣になったからでしょうか。

:そうだと思います。
拠りどころをつくるというのは大事だなと思いますね。
なかなか慣れないけれどいざというときにそういうものが出るんだろうなと思います。

道:少林寺拳法には己を拠りどころにするという教えがありますが、まだその途中ですかね。

:そうですね、死ぬまでにうまくいくか分からないですが、心がけたいです。
何かあったときに流されずにしっかりしなきゃと。
生きていれば、いろんなトラブルがありますが、そういう時にどうしたらいいのかと考えると、自分自身がしっかりしなきゃなと。

道:少林寺拳法をしていると自分の意思で動いているか?というのを常に問いかけられますね。
Fさんは始めてみて日常生活や仕事面で何か変わったことはありましたか?

:私も色々あります。
その中でも少年部と一緒に稽古することの影響や刺激は大きいですね。
これまで少年部くらいの年齢の子供達と接することは殆どなかったので、少年部と過ごすことで子どもへの理解が深まったかなと思います。

道:子どもと接するというのも良い時間になっているんですね。

:そうですね。
子供っぽいとか、「子供」という一括りで捉えていたところがありますが、接してみると個性がはっきりわかり、決して子供っぽくはない(笑)と思うようになりました。

道:それは法座(注:大人と子供が輪になって話す時間)の影響とかもありそうですか?

:法座での発言を聞いてそう思うこともありますし、稽古を一緒にしながら、成長したり変わっていくことを見て、いい刺激をいただいていますね。

:子供はパワーがありますね。
中学生になるとまた変わって、大人と子供の中間のようになったり。

:コロナで一気に稽古が出来なくなったときに、少年部ロスにおちいりました。
少年部と関わっていた時間多かったんだなとあらためて思いました。
オンラインでも画面越しだと違いますし、直接良い刺激をもらっていたんだと感じました。

道:久しぶりに子どもたちと会ったときの感動はありましたね。

:これだ!という感じでした(笑)

継続するために

道:それぞれ二段、初段まで来られたお二人ですが、ここまで続けてきて大変だったことはありましたか?
また、それでも続けてこられたのはどうしてでしょう?

:大変だったことは、二段の試験。そこで引っかかってしまいました。年齢はあると思います。記憶力がだんだん劣ってくるので。
三段まで取りたかったのですが、コロナになって区切られてしまいました。
初段から2年で二段を受験しましたが大変でした。

それでも続けられたのは面白いから。藤田先生から先生が変わっても面白い。
同じ技でも色々違うんだなぁと広がっていきます。自分が知っていることでも段々広がっていく、だからと言ってできるわけではないですが、何度もやっていると頭でわかるようになっていく。そしてまた、できるようになりたいなぁと思って足を運びます。

道:素晴らしいですね。Fさんはどうでしょう?

:学ぶことが多いので生活の中で一定の時間や気持ちを割り当てないと継続が難しいなと思った部分もあります。教えてもらっていればいいだけではないので、復習の時間などの確保は必要でした。
それ以上に続けてこられたのは、やっていて面白い。できるようになると面白いのと、道院の人間関係が良かったからですね。

:できるようになるかもしれないという期待ができるというのはうれしいことですよね。
上に上がれるかな? どうかな、という感覚は楽しいですね。

お互いに質問タイム

道:お互いに聞きたいことなどはありますか?

:Aさんはどうやって技を覚えたんでしょうか?

:技を覚えるのは大変ですね。全部つながっているところが見えてきたりはするんですが、それをつなげて考えられずぶつぶつに切れていたりする。
Fさんは、拳系を覚えていらっしゃるから。そうやって覚える方がいいんだろうなと思ったりしています。

道:二段、初段の試験の時、Aさんはどうやって覚えました?

:何度も何度も繰り返し、相手がそこにいると思ってイメージトレーニングをしました。
仕事をしていると時間がなかなか取れなかったりもする。予習・復習はしないと忘れてしまうので必要ですね。

道:練習に来て、次の稽古に来ないと忘れてしまうというのはありますよね。
ただ、続けていると段々とベースになるものができてきて、これはなかなか忘れないという気がします。

:私は歌を教えていますが、生徒が次の時まで何もしてこないとすぐにわかる(笑)
それが少林寺拳法の私です(笑)

道・:(笑)

道:音楽も習っている時は教室に行っているだけではだめで自分の練習も必要ですね。
他の習い事ともつながるところはありますね。

:Fさんが順序だてて覚えているのはやっぱりいいことでしょうね。

:例えば、攻撃の仕方に共通点があれば、その技をひと纏めにしてしまえば覚える数が少なくて済むかなと思って。暗記物が苦手だった私は関連付けないと覚えられないこともあり、グループ化して覚えました。

道:私は初段、二段の頃はあまり拳系を意識していなかったです。
Fさんの覚え方をAさんも一緒に勉強してみても面白いかもしれませんね。
初段を目指している後輩たちにもFさんの修練方法は生かされていますね。

:私は初段を受ける前に、技の多さに愕然として。大変だ、どうしようかとなって。自分にとってはそういう整理の仕方が一番すんなり入るというか、科目表の順番よりは覚えやすいかなと思いました。

今の心境

道:少林寺拳法をやっていてこういう気持ちでやっている、これからこういうことをしたい、こう過ごしたいななど今の心境をお聞かせください。

:年齢的には、今元気に身体を維持すること、今の仕事を維持することが大事です。
そういうところに来ていると思うんですね。
病気しないとか、ケガをしないということに気をつかっています。
少しケガしたら何もできなくなってしまうと思うので、どれだけ現状維持を続けていくかが大事だと思っています。
まず風邪をひかないことですね。歌を歌っていたから風邪を引きたくなくてすごく気をつけています。

道:やはり喉を守ることは常にしてこられたんですか?

:喉を潤したり、うがいを常にするとか。コロナ前から冬になると絶対にマスクをしていました。
あとは、黒ニンニクを自分でつくって毎日2粒食べたり。

道:すごい。Aさんはお体は細くて背も小さい方ですが、怪我をあまりしない、丈夫なイメージが強いですね。見習いたいです。

:修練は、級の方の技もやるのも新鮮で楽しいです。
どんどん上には行けないかもしれないけど、試験のためにやっているのではないから楽しめます。
なんでもやってみたいなと思います。段々動けなくなってきたところもあるけど、動きたいですね。

道:少しやり方を変えたりしつつできることはありますね。

:できる範囲で動きたいなと思っています。

道:Fさんはいかがでしょう?

:私は、手術で稽古を休んだり、手を怪我して休んだりしました。一定期間休んでしまうと、稽古に戻れるか不安になったりもしましたが、回復すると自然に稽古に足が向くようになるので、この先も自分の体調や体力に合わせて継続していきたいです。
今の目標はまず、二段です。
その先にもっと数を掛けるとか深めていくことをしたいなと思っています。
数を掛ける前に、まずはどんな技かを覚えることが必要ですが、まだそこまでいけていないので。

道:少林寺拳法はまずかたちから入れるのがいいところですね。

これから入門する人へ

道:最後に、もしこれから入門したいと思っている人に声を掛けるとしたらなんといいますか?

:営業のようなこと?(笑)

道:勧誘しなくてもいいですが(笑)
過去の自分を振り返ってみて掛ける言葉だったり、迷っている人にアドバイスなどはありますか?

:私は、鎮魂行(注:教えを唱和し座禅をする)の時間にあまり行けないことが残念なんです。
鎮魂行のことは理解はだいたいできているとは思うんですけど、すごく大事なことが書いてあります。そういうものに浸る時間はいいなと思っています。
入ってよかったなと思うのはそういうところでもあります。
素敵なことが書いてあるなと、それを完全には分かっていないんだけど、なんとなく分かりながら生きていくのも素敵だなと思いますね。

道:そのあたりは、入ってみないとわからないですものね。

:素直にすっと入る人も拒んでしまう人もいますからね。

道:Aさんは、自分がやっていくなかでいいなと感じたんですね。

:はい、生活の中で思い出したりしますね。

道:なるほど…。Fさんはいかがでしょう?

:入門したいと思っている人や迷っている方へは、「今、興味を持っているなら今がそのタイミングですよ」と伝えたいです。
自分の時もそうでしたし。遅すぎることもないし、今がそのタイミング。
ためらいなくどうぞ、と(笑)

道:それぞれのタイミングがありますものね。
お二人ともお話ありがとうございました。

編集後記: 副道院長の感想

少林寺拳法を始めた時の新鮮な気持ちや面白さが良く伝わってくるとても楽しいお話ができました。お二人とも、道院の他の拳士や少年部との交わりも大切にしながら、いつも真摯に自分自身と向き合われているのだなと感じます。
細かな気配りで助けていただくことも多いですが、そんなお二人がこれからも安心して修行ができるようにサポートをしていきたいと思います!

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