副道院長の道須が、東京桜台道院に所属する拳士に話を聞くシリーズです。
今回は、壮年世代のご夫婦拳士にお話を伺いました。ご夫婦で少林寺拳法を修行するようになって感じることや、これまでの社会経験から若い拳士について思うことなど、多くの方に読んでいただきたいお話です。
(※インタビューは2020年1月に行いました)
M拳士・・・少拳士二段、男性。落ち着いた柔和な人柄で周囲から慕われています。上段蹴が見事!
Y拳士・・・4級、女性。2018年の夏に入門。言葉と表情で、その場をぱっと明るくしてくれるおちゃめな方です。
少林寺拳法との出会い
道: 今日はよろしくお願いします。
M&Y: はい、よろしくお願いします。
道: Mさんが少林寺拳法を始めた頃の話ってあまり聞いたことがなかったんですけど、どういう風に始めたんですか?
M: 大学生の時、学生寮に入ったんですけど、同じ階の少林寺拳法をやってる先輩から、「よかったら練習、見に来ない?」と言われて昼休みに練習してるところを見に行ったのが、きっかけです。その当時、まだ、同好会で、昼休みだけの練習だけでしたし、僕自身も何か始めたいとも思っていたこともあって、入部したんです。
でも、入ってしばらくしたら、夕方に2時間ぐらいの練習日が次第に増え、平日はきちっと毎日やるようになっていきました。部員も増えていきました。
僕らが三年の時に、同好会から「体育会」の部に昇格したんですよね。当時、学生が全体で600人ぐらいしかいなかったんですけど、そのうち、少林寺拳法の部員がたしか40〜50人いたんですね。
道: すごい勢力ですね。先生はいらっしゃったんですか。
M: 先生は、電子工学講師の若い方で、当時四段でした。
Y: 先生はお一人?
M: そうです。
Y: それで50人?
M: 先生に最初教えて頂いて、あとはそれを先輩が後輩に教える。そのほかは、近くの道院にもみんなで行ったりして、技の習得に努めました。
大学構内に自動車のテストコースがあって、練習前にそことグランドを走って、それから、練習に入る感じでした。練習は、やはり剛法主体でしたね。
道: 元気が有り余ってる感じですかね。
M: 若かったですからね。同級生に一人経験者ですごいのがいたんですよ。当時高校で黒帯とって、柔軟性もパワーもすごいし、体も大きいし、ブルースリーのようで、彼はすごいなと憧れて、彼みたくなりたいなと目標にしてました。
道: 同じ学生同士でも、そういう人がいるとやっぱり目指すところができるからいいですよね。
M: 同級生の彼の他にも、僕らより一つ上の先輩にうまい人も多かったんです。あそこは、あの人うまいな、ここはこの人がうまいなとか、真似しようって感じ練習してました。
道: 大学のあいだ四年間続けられたんですか。
M: はい。本山にも春合宿で三回行きましたね。一週間ぐらい。
道: その時はまだ開祖がご存命の時ですか。
M: はい、開祖の法話を聞きました。教本にサインも頂きました。今日、稽古の時間に、開祖の録音を聞いて、懐かしい声だなと思いました。
道: 生で聞いた人は今だいぶ少ないので、貴重ですね。
Yさんにお聞きしたいんですけど、Mさんが少林寺拳法をされてたのは以前から聞いてましたか?
Y: 知ってました。大学時代そういうことをやっていたというのは聞いたことがあって。
でも、武道をやっていた風には思えなかったので、…。意外でした。
道: 思わなかったんですね(笑)
Y: ええ(笑)
私はテニスとかスカッシュとかラケット系のほう好きだったので、その頃は、武道には特に興味はなくて。
道: じゃあ聞いてはいたけどあまり深入りするほど興味はなかったんですね。
Y: はい。
M: たしかに、武道には興味がなかったかもしれないけど、大学時代に少林寺拳法を一緒にやっていた仲間とは、今でも、ずっと付き合いがあって、そのことが、少しは影響あるかもね。
Y: 今もつながっている人たちが、全国にみんなそれぞれ散らばっていて。
だから出張先でお会いしたりとか、時々集まりがあったり、そういうのを聞いて団結力があるなと思ったり、学生時代のつながりってすごく大人になって活きてくるから、いいことだなと思って見てました。
道: そうですね。
お二人はじゃあ趣味は全然違ったんですね。Mさんは、球技は…?
M: 球技はだめなんです。
道: 僕もだめです(笑)
Y: 型をやるのが好きって聞いたから、彼には合っているのかなと。
私はもっと自由で、感覚的なほうが好きなので、決められたことを覚えていくことに対して、今は難儀しています。
道: 球技だと、やり方を覚えるというよりは、来たボールに対してどうするかが全てみたいな感じでしょうか。
Y: 自分の中で判断して、その場でやっていけばいいことだし、誰から教わるというよりも自分の感覚を信じてやればいいので、そっちのほうが好きなんですが、でも武道の世界は経験したことないからいいかなと思っています。でも、覚えが悪いんです。
道: いやいや、そんなこと全然ないですよ。
M: 彼女は、運動神経が、良いほうじゃないかなー。
道: そうですね。Yさんは動きに迷いがないなと思って、すごいなと思ってました。
最初からこんな思い切りよく動ける女性あんまり見たことないなと。
東京桜台道院との出会い
道: 桜台道院はどうやって見つけたんですか。
M: 以前テコンドーをやっていて、膝を痛めてしまって、もう限界だなと、やれないなと思ったんですが、武道はやっていきたいなと思って。
それで少林寺拳法をもう一回やってみようかなって思った時に、検索したんですよね。
地元付近だと、昔はけっこうホームページに詳しく載ってたんですけど、最近あまり出てなくて、それで沿線を調べたら桜台道院を見つけて、オープンな感じで、高齢の方の紹介も書いてあったんで、じゃあ俺もやっても大丈夫かなと思いました。
Y: それは自分が年齢が高いことに対して、環境はどうかなってこと?
M: 年齢のこともあるんですが、昔のハードな練習のイメージがあって。
道: 大学の時にガシガシやってたイメージが強かったんですね。
M: そうなんです。それでやっていけるかなと思って。
でも、高齢の方も長く続けている感じだったので。
道: テコンドーは激しい感じだったんですか?
M: 激しい時もありましたが、蹴りが主体の練習でしたので、膝を痛めてからはつらかったです。 型自体も、踏み込むというんですかね。空手と同じで突く瞬間に体重を足にかけるので、床も堅かったこともあって、膝に負担がだんだん溜まってきた感じでしたね。
道: 膝を傷めなければずっとやってたかもしれないですか。
M: 一度始めたからには続けたかったですね。
水が溜まった時にMRIを撮ったら、半月板が欠けてて、手術をしない限り治らないと言われて、これは完全に復帰は無理だなと思いました。
道: 膝は消耗品と言いますものね…。
それで桜台道院に来られて。最初はMさんだけで体験で来られてましたね。
M: そうですね。そして次の月ぐらいに妻を見学に誘ってきました。
Y: うま〜く誘われてしまいました(笑)
「よかったら見に来ない?雰囲気いいし」くらいの感じだったかな。
私は、お付き合いという感じでしたけど、何か一緒にやれることがあったほうがいいかな、きっと一緒にやりたいんだろうな、と思ってました。
その前に実は、空手の型のドキュメンタリーか何かを見ていて、琉球空手かなんか、忘れてしまったけど、それに憧れて。
M: キレがあって、かっこ良かったね。
Y: 空手の大会かなんかで、すごくかっこいい。自分があれをやってみたいと感じて。
キレと瞬発、すごく凛としてかっこよかったから。
道: そういうのもあって「少林寺拳法どう?」っていうことになったんですね。
M: どっちかっていうと、周りの人が良いからっていうのもありますよね。
Y: 誘い文句の中には、すごく雰囲気がいいところだから、いいんじゃないかなって言ってたよね。
道: あの時は、よくみんなで飲みに行ってましたしね(笑)
Y: 夏だったし、入門したのが。
でもやっぱり何をおいても人じゃないですか。そこがすごくいい感じだなって。親戚の集まりみたいな朗らかさもあったりして。
道: 最初に来られた時から雰囲気がいいなと感じてたんですね。
Y: はい。知人にどうして始めたのって聞かれたり、よく続いてるねって言われた時も、雰囲気がいいからって言ってます。
私はこの人間関係を大切に思っていて、細く長くでも関わっていきたいと思ってるの、って伝えています。
道: すごく嬉しいですね。じゃあ入る前にじっくり相談するという感じではなかったですか。
Y: 入る前の相談はまるっきりなかったよね。まず行って、よかったらちょっと体験してみないかって言って。
M: 自然にいつの間にか。
Y: 道衣の注文の流れになっていた(笑)
その後は、何度か挫けそうになった時に、サポートしてくれて。
迷った時期
道: その辺もぜひお聞きしたいんですけど、あまり不安なく入ったとしても、続けていく中で大変なことってありますよね。
Y: 今まで自分が学んできたものと勝手が違ったんですよね。教わり方とか、全てのやり方がよく分からなかった。
消化不良で帰る日も続いて。
合わないのかもしれないと思ったんだけど、それはそういうやり方だよって先輩から教わって。
そういうものなのかって思いながら雰囲気をつかんで。
道: 今までの習い事だと自分の中で一つずつ積み重ねていけたのが、なかなか難しかったということですか?
Y: 達成感の持ち方が難しかったんですよね。あれ、今日これでよかったのかな、とか。
まだ模索中ではあるんですけど。
道: でもずいぶん慣れてくださって。
M: もう一年半ですね。
Y: 長き道だっていうのはわかるんだけど、達成感はまだ掴んでる最中ですかね。
道: いや、でも外から見てると着実に進歩されてると思います。
そういう相談とかもお二人でされたりしたんですか。
Y: 迷った時期もありましたけど、でもそういう時に「何が楽しいの?」とかは道院の人には聞けないじゃないですか(笑)
夫婦でやってるからこそ、身近でやっている先輩としてぶっちゃけた質問ができるのがいいことなのかなって思います。
道: なるほど。
まぁ、聞きづらいこともあると思いますけど、道院の人たちにも、誰にでも相談してくれれば真剣に答えてくれると思います。
Y: 今の私のモチベーションは、道院の人たちに会いに行くっていう。
そしてひとつ何かを憶えて帰るっていうことですね。
今後の夢
道: これからのお二人の夢とかありますか?
少林寺拳法と関係なくてもいいですけど。
M: 夫婦で組演武ができたらいいですね。いつかは。
Y: 遠慮なくできるからね(笑)
道: そうですね。
今は二人で練習することって道場ではあまりないじゃないですか。家ではありますか?
M: 家ではありますね。
Y: 復習をさせてもらおうと思って。これは何をやったの?みたいな感じで。
M: 一晩寝ちゃうと忘れちゃうので。
道: 二人でやっていてどうですか?
技を掛け合うのもある意味コミュニケーションだと思うんですが、お二人の時間の中ではどうなんだろうと。
Y: 私の場合だと、家では肩の力を抜いてできるかなって。道場では、緊張してしまって。
道: 家でそうやって遠慮なくできるっていうのも、お二人の関係がいいからっていうのがあるんでしょうね。
Y: なんでも聞けるし、共通の話題が増えてよかったんじゃないかなって。
共通の人もそうだし、共通の話題、同じものを学んでいるから、語れることは多くなりましたね。
若い世代との関わり
道: 若い人からも、素敵なお二人ですよねっていう声はちょくちょく耳に入ってきます。
M: 直に言ってほしいね(笑)
道&Y: (笑)
道: そういう意味では、拳法だけじゃなく若い人のメンター(助言する存在)にもなってもらえればと思ってるんですよ。
Y: 若いみんなの揺れる気持ちとかは分かります。通ってきた道だから。
自分はある程度精力的に働いてきた時期も過ぎて、今は楽しむ人生を目指しているので。
今日のワークショップ?(法座)とかも、20代、30代と悩んで仕事してきた時期を思い出して、振り返りながら参加してました。
道: じゃあ新社会人のK君とかを見ていて、こういうことあったなとか。
Y: そうですね。
M: 社会に入って一年は必死だったからね。
今は一生懸命仕事をする時期なんだろうね。もう少し安定してきたらまた練習にも来てくれると思いますけど。
Y: よく先輩に言われました。人生は尺取り虫じゃないけれども、縮む時期があってこそ伸びるんだからって。
学びの時期っていうのは辛いし嫌にもなることもあるけど、そういう時は縮んでいるかもしれないが、その次の一歩のために今学んでると思って頑張りなさいって。
そうやって色んなアドバイスをもらって育ってきたのを思い出しました。
道: ぜひ、お二人からも、若い人に声をかけてあげると力になると思います。
編集後記: 副道院長の感想
その場にいるだけで周りを安心させてくれるような、社会経験豊富で安定感のあるお二人との楽しいお話でした。
道院の雰囲気がよかったから、と口を揃えて言ってくれましたが、今やその雰囲気の良さを支えてくれているのは間違いなくこのお二人でもあります。
私も社会人の後輩として色々学びたいところが多いのですが、一方では中高年ならではの修練の悩みもあると思いますので、微力ながらサポートしていきたいと思います。
そしていずれ、夫婦演武を楽しみにしています!