副道院長の道須が、東京桜台道院に所属する拳士に話を聞きます。
今回は、今年の春から新社会人として働きはじめた二人の20代拳士に話を聞きました。
少林寺拳法について、社会で働くことについて、今、感じていることを沢山話してもらいました。
(※インタビューは2019年9月下旬に行いました)
A拳士(左写真 後ろ姿)・・・理系大学院修士卒業。中拳士三段。女性。
K拳士(右写真)・・・文系大学卒業。中拳士三段。男性。
少林寺拳法との出会い、道院との出会い
道須(以下、道): 今日はよろしくお願いします。まず少林寺拳法を始めたきっかけと、東京桜台道院に入ったきっかけを簡単に教えてください。
じゃあまずAさんからお願いします。
A: 中学生の時に、もともと少林寺拳法をやっていた友達に体験に誘われて、部活で始めました。中高と6年間やって、その後はブランクがありました。
道院に入ったきっかけは、就職が決まってたまたま桜台に引っ越してきて、周りに何があるだろうと調べたら少林寺拳法の道院があって。
道: 少林寺拳法を再開しようと思って探したわけではないの?
A: はい。たまたますごく近くに道場を見つけて、久々に少林寺拳法をやってみたいなと。
仕事だけじゃなく何かあった方がいいなと思っていたのと、ホームページを見て若い方が道院長で、行ってみやすそうな雰囲気だったので、来ました。
道: ご縁ですね。では、K君お願いします。
K: 父親がずっと少林寺拳法をやっていて、大会とかも見て小さい頃からかっこいいなと思っていて、その流れで父親のいた道院に入りました。
辞めたいと思ったこともあったけどそれは許されなくて(笑)ずっと続けてるうちに自分の中でも当たり前の生活リズムになって、今でもそういう感じです。
道: 最初にお父さんがかっこいいと思ったのは、今でも覚えているの?
K: はい、父親が大会で演武をして、投げ技や合掌礼をしている姿をしっかり覚えていて、すごいかっこいいなって。
たぶん3〜4歳ごろだと思います。入門したのは6歳の小学校に入る前です。
小学生になってからは道院で友達もできて楽しくて、中学校からは部活も始まったけど道院の練習もしていて。
中学後半は少し休んだんですが、高校では少林寺拳法部で3年間やりました。
道: それから大学で東京に来て…東京桜台道院に入ったきっかけは道院長がいたから?
K: はい、不破道院長が地元の先輩で、自分が小学校のときから可愛がってくれるし優しい先輩で、個人的に憧れがあったので。
その不破さんが東京で道院長になったと聞いて、ぜひとも一回は行かなければという気持ちがあって。
大学では少林寺拳法をやってなかったので、再開するいいきっかけかなと思って道院に入りました。
道: いいタイミングだったんじゃないですか?
K: そうですね。大学生で時間に余裕がある時に入って、社会に出る前に人間関係もできて、良かったなと思います。
道: Aさんは学生時代が終わるタイミングで入ったから、環境の変化に合わせて新しくやり直すような感じでしたか?
A: うーん、でも自分の中では、少林寺拳法は中高で頑張っていたので、懐かしいというか戻ってきたというイメージです。
仕事のほうが新しい環境でプレッシャーもあって、逆に道院は安心できる場所かなと思います。
今やっている仕事
道: では次に、それぞれ今やっている仕事を紹介してもらえますか?
A: 土木関係の、建設コンサルタントという仕事です。
私はその中でも川の関係の仕事をしていて、4月に始めたばかりなんですけど、川の中に流れている土砂管理の仕事を、先輩の下について色々教わりながらさせてもらっています。
ただ今はちょっとバタバタして新しくできた部と兼任になっていて、同じく川に関係があるんですけど、少し種類の違う予測の計算もこれからしていくことになってます。
K: 僕はカップラーメンの営業の仕事をしています。
小学校の頃から、『カップラーメンのひみつ』というような本を読んだり、CMを見ていても面白いものがあるなと思って、カップラーメンの仕事に興味を持っていました。
今は、いろんなお店を回って、新商品ができたら食べてもらったりする仕事を先輩にくっついてやっています。
10月からは自分の担当を持たせてもらえることになり、これからは数字が大切になってくるよと先輩に言われて、楽しみ半分、不安半分が混じっています(笑)
道: なるほど。それぞれもっと詳しく聞きたいところですが、時間が足りなくなるので先に進みます(笑)
今の課題、悩んでいること
道: ここからはあらかじめ用意したテーマのリストを見ながら、好きなものに答えてもらおうと思います。
もしくは、相手に質問を振ってもいいですよ(笑)
A&K: (しばらく沈黙)
A: (K拳士に)振ってもいいですか?
K: 軽めのやつで(笑)
A: 空気を読まずに重いものを行きます(笑)
この「自分の課題や悩んでいること」ってどうですか?
K: 仕事で今悩んでる点だと、日常生活でまだ体がリズムに慣れてない中で新しいことがどんどん増えていって、あまり要領が良くない方なので、時々パンクしてしまうんですよ。
そういう時に体調を崩すということが最近出ていて、車の運転とかもするので気をつけないとなと思って。
道: 休むほどではないけど、みたいな?
K: 土日でだいたい発散できるんですけど、土曜日が仕事だったりすると、そこでちょっとずれて。
仕事上、自分でスケジュールは組みやすくて、慣れていけば自分に合ったリズムが作れると思うので、それを早く見つけるのが課題かなと思います。
(A拳士に)振ったということは、何か課題があるってことですよね?(笑)
A: そうなんですよ〜。私も仕事で覚えなきゃいけないことがたくさんあって、帰りが遅くなってきて体調管理とかは気をつけてはいるんですけど。
やっぱり仕事があっちから降ってきてこっちから降ってきてってなると、混乱してしまってすごい大変です。
それと新しく兼任で入った部が、すごく優秀な方たちが多くて、期待されたすごい人が集められたんだろうな、あれ、私なんでここに入っちゃったんだろうと。
道&K: いやいやいや(笑)期待されてるんでしょう。
A: 兼任で仕事も多くて分からないし、周りがすごい方ばかりでプレッシャーだらけで(笑)
K: それは確かにプレッシャーだ。
もうちょっと楽したくないですか? 楽したいっていうとなんだけど、ちょっとゆっくりペース合わせて行きたいっていう。
A: そう、一足飛ばしに求められている感じがして、それはつらいなって。
もともといた部署はゆっくりしてくれてたんですが、新しい部署ではすぐ力になるのを求められてる雰囲気で。
道: なるほど。ふたりとも全然違う悩みというか、種類が違うプレッシャーですね。
学生時代と今で一番変わったこと
K: 「学生時代と今で一番変わったこと」っていうテーマがありますけど、中高時代と今ってきっと全然違いますよね。
僕自身モチベーションとか色々違ってて、部活の時はお湯を沸かすように強火にかけて沸騰しろってやってたんですけど、今は温度を保ってポットで保温するような状況になっているのを自分で感じていて。
道: あんまりモチベーションをチンチンに上げないほうがいいみたいな?
K: 上げちゃ良くないなというのを自分の中で感じていて。
道: 終わりがないからね。
K: そうなんですよ。それがいいところでもあり、ゴールが見えないってつらいなって思って。
父親に、辞めたいと思ったことある?って聞いたらあるよって言っていたんです。あぁ、ずっとやってるけど辞めたいと思ったことあるんだって。
Aさんは道院にもまったくゼロからの人間関係に飛び込んで、いろんなことが変わるだろうなと思って、聞きたいと思うんですけど。
A: 中高の時は部活で頑張っていたんですけど、大学では部活はやっていなくて好きな勉強を自分でのんびりやっていたので、学生の頃のほうが自分のペースでやっていたんです。でも今は無理やり全速力で走らされているような、追い立てられてるような感じで、やりたい業界に入ったんですけどすごく疲れちゃっていて。
むしろ道院はほっとできる場所かなと今思っています。中高の部活みたいに試合で絶対勝つために頑張るとかなく、自分のペースで少林寺拳法を続けてねっていうスタンスでいてくださるので。
体を動かすというのもありますけど、仕事と関係ない人付き合いで、新しい環境だけど皆さんやっぱり優しいので、いろんな世代のいろんな職種の方と話せる場があることが、自分の中ではすごくほっとするんです。少林寺拳法でいてよかったなって。今仕事で疲れて結構参っちゃってる状態なので、慰めじゃないけど道院が安心できる存在として、楽しく雑談もできるけど何かあった時に相談できる場所でもあって、心の支えになります。
K: 無理に来なくていいっていうのがいいですよね。
さっきも言ったようにゴールがないので、スローペースでやってていいんだよっていうのが、リラックスできます。
A: そうですね。ほんとにそれはあります。
道: その辺の少林寺拳法への向き合い方は二人とも近い感じですね。
K: ただ微妙なのが、目標がないんですよ。今は昇段したいとか大会っていう目標もなく、体を動かすために行くっていうぐらいの気持ちでやってて。
それでも許してくれるっていうのがありがたいです。
道: 二人とも、いてくれるだけで嬉しいですよ(笑)
仕事の達成感
道: 仕事で追い立てられたりプレッシャーがあって、達成感がないと報われないというのがあると思うんですけど、今までの中でちょっとした達成感みたいなものはあったりしましたか?
A: そんなにないんですけど、資料を作った時によくできたねって褒められたことと。
あと新人なので電話を取らないといけないんですけど、最初はぎこちなかったのが対応がうまくなってるのにふと気づいて、自分で「できてるできてる」って(笑)
早口の所属名が聞き取れるようになったりとか。仕事柄、相手の所属名が長いんですよ。「○○○○○○○○整備局△△△△△△△の誰々です」みたいな(笑)
道: 名前しか分からないと取り次げないもんね(笑)K君は?
K: 昨日の話なんですけど、たまたま先輩が商談に行けなくなって、代理で初の一人商談に行ってきて。
道&A: おぉ〜(笑)
K: やることも時間も決まっていたので、先輩から教わったことを全部投入して、終わった後どうにかなったなと思ってほっとしました。
道: 良かったね。
A: でも、できそう。しゃべり上手そう(笑)
K: いやぁ、難しいんだな、意外にテンパっちゃうんだなって思って。
先輩方は担当の方とも面識があって関係ができてるんですけど、これから作っていかなきゃいけないっていうのが難しいなと。
道: やることも初めてなら人間関係も初めてなのに、成果を求められると大変ですよね。
道院に求めること
道: 道院でもっとこうだったらいいのになということはありますか?
A: 結論はこうだったらいいなが「ない」なんですけど…。
学生の頃は試合で勝つためにどうやったら演武がかっこよく見えるかとか、切れ味の良い動きができるかを考えていたんですけど、改めて少林寺拳法をやって思ったのが、柔法が面白いなと。Yさんとか、なんでこんなので倒せるの!?みたいな発見があるのも楽しいと思って今は通っています。学生でもうまく倒せるとかはあるんですけど、もっと本質的に人を倒すというか、もっと技自体のことに興味を持ってます。
道: おぉ〜。いいですね。K君はどうですか?
K: 僕は東京桜台道院に転籍してきて、大きな目標が群馬県でやる全国大会に団体演武で出るっていうことで、学生で時間があったのもあってモチベーションが高かったんですけど、今はなかなか大会にも出られないですし、時間が遅くなるので練習もそんなにできないので。
もう一回何か・・・ちょっと何か・・・。
道: 燃えたい?
K: ちょっと燃える時期があってもいいなって思うんですけど(笑)、疲れちゃうんだよなって、練習なかなか行けないんだなっていうのが頭の中でモヤモヤしてて。でももう一度燃えるところが欲しいです。
道: さっきのポットの話と同じで、どう自分を盛り上げていくかと、どう続けていくかっていうところですね。
K: そうですそうです。ずっとだと嫌になるんですけど。
A: ポイントで。
K: そう、ポイントでできたらいいなって。二年に一回ぐらいそういうのがあればちょうどいいんじゃないかなって(笑)
少林寺拳法って、ずっとやってるとちょっと離れたくなるけど、離れてるとやっぱりもう一回やりたくなるものだなって思います。
A: あぁ、わかる。私も大学のあいだ離れてる期間があったから、道院が近くにあってやっぱりやりたいなと思ったんですよ。
K: 僕もそうかもしれないです。道院の近くに住んでるのも、近くに置いておきたい、行ける環境を置いておきたいっていう。
「もう一度あの熱意を」というのを求めてる人っていると思うので、大勢人がいればマッチした時に一緒に盛り上がれるというか。
道: 確かに、それぞれのタイミングもあるしね。うまく合えばまたどこかのタイミングでやりましょう。
最後に一言
道: では最後に言い残したことがあれば、一言ずつお願いします。
K: たぶんあと何年かしたら転勤で違うところに行くんだろうと思うんですけど、離れてからもう一度やりたいなと思った時に戻ってこれる場所があるっていうのが心の支えになるので、いつまでも道院があり続けてほしいなと思います。
道&A: おぉ〜(笑)
A: 私は今まだ転勤の予定とかはないんですけど、心の支えなので(笑)あり続けてほしいなって思ってます。
道: ありがとうございます。じゃあみんなで、ちょっとずつでいいので、道院長を支えていきましょう。
よろしくお願いします。今日は話を聞けて良かったです。ありがとうございました。
A&K: ありがとうございました。
編集後記: 副道院長の感想
二人それぞれ、新しい環境で頑張っているのがとてもよく伝わってきて、より一層応援したい気持ちになりました。
スローペースで行きたいというのも本心なら、一方で「もう一度熱くなりたい」、「技そのものに興味がある」という気持ちも本心だと感じ、頼もしく嬉しくなります。
話の中に出ていたように、多様な世代、多彩な職業の仲間が、お互いに良い影響を与えることができる場所が、少林寺拳法の道院です。それが時には癒やしとなり、時には明日への活力となるのではないでしょうか。
彼らの想いに応える道院であり続けられるように、これからも努めます!